月経困難症の治療について
月経困難症には大きく2種類あることについては、月経困難症の原因について、で説明させていただきました。器質性月経困難症の治療は、その原因となっている病気の治療が最優先となります。機能性月経困難症の場合には以下の選択肢があります。
鎮痛薬(痛み止め薬)を用いた治療法
痛みの緩和に対して即効性を重視されたい場合に非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs: ロキソニンなど)という鎮痛薬(痛み止め)を用いた治療法が有効となります。NSAIDsには子宮収縮を促す伝達物質プロスタグランジン(PG)の発生を抑える作用があります。そのため、ご使用にあたっては痛みのピークを迎えるタイミングで服用されるのではなく、痛みの原因物質であるPGが産生されないように、痛みが生じる前に対処しておくことが重要です。具体的には、月経開始時、もしくはその直後から服用を開始し、6-8時間ごとに2-3日服用すると効果的です。市販薬も多く販売されていますが、病院での処方も可能です。
子宮の収縮運動そのものに直接アプローチして痛みを緩和させる治療法
ブスコパンというお薬は子宮筋の過剰な収縮を抑制することが知られています。また、漢方の芍薬甘草湯(シャクヤクカゾウトウ)は筋肉に対する抗痙攣作用があり、子宮の筋層に対しても同様の効果があるとされております。胃腸が弱くてNSAIDsが飲めない方やNSAIDsだけでは効果が弱い方にもおすすめです。
体質改善を踏まえて症状の改善を図る漢方薬を用いた治療法
漢方薬と生理痛の相性は大変良いと考えられています。例えば、当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)や桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)、温経湯(ウンケイトウ)、桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)、芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)などといった漢方薬は生理痛に対するカバー力が高く、副作用も少ないため古来より治療現場で積極的に活用されてきました。漢方薬は体質改善など体の深部からのゆるやかな改善を促す効果が期待されている薬です。そのため、ある程度の期間継続して服用いただくことが必要となり、根気強く治療に向きあっていただく姿勢も求められます。目安として、3か月程度は内服を継続する必要があります。また、当帰芍薬散は不妊症にも効果があるため、妊活中の月経困難症の方では第一選択薬になります。
黄体ホルモン(ジエノゲスト)を用いた治療法
黄体ホルモン(ジエノゲスト)には排卵を抑制し、子宮内膜の増殖を抑制する作用があります。その結果、子宮内膜が薄く保たれるようになり、月経を起こさないようにコントロールすることができます。日常生活に支障が出るほどの強い痛みや月経困難症でお困りの患者さんに対しては有効な手段のひとつとなりますが、不正出血が起きやすいなどといったリスクもあるため、ご使用にあたっては医師の適切な診断をもとに正しい知識と理解が必要となります。
低用量ピルを用いたホルモン療法
月経困難症の治療や生理痛の軽減目的で使用されるピルは保険適応の治療法となります。女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンを低用量で配合した薬剤であり、子宮内膜の増殖を抑える働きがあります。子宮内膜が厚くなりにくいため剥がれ落ちる量も減り、その結果として月経痛や出血量が軽減されます。貧血症状も改善されやすく、生理前のイライラや憂鬱感、頭痛などといった月経前症候群(PMS)の症状緩和も期待されている治療となります。ただし、ピルの使用にあたっては注意事項も多く、正しい服用方法と副作用の可能性についても十分にご理解いただいたうえでご使用いただくことが大切です。
ピルの使用に関する注意点
ピルは毎日決められた時間に服用することが大切な薬です。服用初期には吐き気を感じる方も少なくなく、飲み忘れ等によって不正出血などの問題が生じる可能性もあります。また、血栓症のリスクについて正しくご理解いただいたうえでご使用いただくことが大切です。当院では初めての方にもご理解いただけるように、使用方法についてスタッフが丁寧にご指導いたしております。わからないことやご心配事等ございましたらお気軽に担当スタッフまでお声がけください。
ミレーナ(子宮内黄体ホルモン放出システム)を用いた治療法
ミレーナは子宮内に直接挿入する治療器具です。子宮内に留置するとレボノルゲストレルという黄体ホルモンが持続的に放出されるため、子宮内膜の増殖が抑えられ、子宮内膜を薄く保つことができます。その結果、経血の量が大幅に減少し、痛みの軽減を図ることが期待できます。成分は子宮周囲にのみ作用するため、ピルやジェノゲストのような全身に広がる影響を心配する必要がなく、体調不調が起きにくいというメリットがあります。T字状のやわらかなプラスチック素材で作られたミレーナは、一度装着すると効果が5年間持続されるため、毎日の薬の服用がわずらわしい方にもおすすめの治療法となっています。ただし、出産経験のない女性においては子宮の入り口が狭いため、挿入時に強い痛みを感じることがあります。また挿入後はしばらく不正出血が続くこともあります。
生理痛の治療にあたっては正しい知識と理解が必要です
生理によるつらい症状を緩和させるためにはさまざまな治療法が検討されますが、いずれもメリット・デメリットが存在します。例えば、最近若い方に利用が広がっているピルの服用については、低年齢のお子さんが服用される際には親御さんたちのご不安や心配事も多いことと思います。いずれの治療法を選択するにあたっても、まずは正しい知識と理解を持ち、正しくご使用いただくことが大切です。当院では初めての方にもわかりやすいご説明をスタッフ一同心がけており、安全性に十分配慮した治療提案を行っております。リスクもすべて説明させていただいておりますので、その上で、自身にとっての最良の治療方法をご選択ください。